夜が明ける
山の端にかかる雲が薄く色づき始める頃、少年はいつも通り目を覚ます。
他の住人たちはまだ寝ている。だから大きな音を立てないように、そっと寝床を這い出すと、寝間着のまま、小さな籠を持って畑へ向かった。
外の空気は冷たく、夜明け特有の湿った匂いがした。まだ闇が濃く残っていて、よく見えないが、一足先に目覚めた鳥たちの声があちらこちらから響いてくる。
もう半刻もすれば、村人たちが起きてきて、賑やかになるだろう。しかし今は、村はまだ静寂に包まれていて、まるでこの世界にいるのは自分だけのように感じる… 少年はこの僅かな時間がたまらなく好きだった。
少年が身を寄せている、屋敷の前には小さな畑があった。
朝食の材料を集めるべく、その小さな畑に入り、葉物や根菜を少しずつちぎる。葉に溜まっていた冷たい朝露が足にかかる。春になったばかりでまだ寒い。
籠が半分くらい満たされたところで少年は手を止め、東の空を眺めた。
屋敷を出たときはまだ半分夜空だったが、今はもう明るい。
今日は朝焼けが綺麗だ。
紫に染め上げられた空を見上げて、懐かしい人のことを想う。
あの人は明け方になって、ようやく帰ってくることが多かった。
村の後ろに控えるなだらかな山々の輪郭が淡く色ずくのを眺めながら、自分を拾ってくれた人の顔を必死に頭に浮かべようとした。
しかし、やはり思い出せない。
まだあの頃、少年はとても幼かったから。